傷ついたサンゴ礁からは音がしなくなり、魚のこどもたちが自分のすみかへの道を見つけられなくなる 2019/5/28

      2019/05/28

『Damaged coral reefs are going quiet and young fish can't find their way home』(英文PDF)

ABC News 2018年5月1日

担当者:Akane Shoji

≪要約≫
良好な状態のサンゴ礁からは生きている間、そこに生息する無脊椎動物が発するポンという弾けるような音や、パンという打つような音が聞こえる。そして、生まれたての魚の多くは、これらの音を頼りに自分の新しいすみかに旅立つ。しかし今日、白化や低気圧によって損傷したサンゴ礁は無傷の珊瑚礁よりもはるかに静かで、サンゴの回復に不可欠である生まれたての魚を惹きつけにくくなっているということが最近、科学者によって明らかになっている。

この結果は、ある国際チームが最近米国科学アカデミー発行の機関誌である「米国科学アカデミー紀要」で公表し、共同著者であるオーストラリア海洋研究所(AIMS)のマーク・ミーカンは、その結果は危惧されるものであると述べた。
「白化している間に、サンゴはそこに住む褐虫藻を失い、栄養が取れずに死に、生きたサンゴの覆いは藻類に取って代わられる」と彼は述べた。

「若い魚は礁をついばみ、藻類を抑えます。魚が藻類の成長を抑制しなければ、サンゴは礁上に全くスペースがなく、通り抜けることができません」。 ミーカン博士は、ハイドロフォンと呼ばれる水中集音器を通して聞く良好なサンゴ礁の音は、「フライパンで揚げるベーコンを聴くこと」のようなものであると述べた。

「しかし、それはチーチーという高音や、鳥のさえずりのような音チャープやつぶやき、そして魚から発せられるあらゆる種類の音によって区切られています」

研究者らは、2012年11月から2016年11月のクックタウン沖グレートバリアリーフ北部のリザード島周辺の礁からの水中音響記録を比較した。記録の合間に、礁は2014年にサイクロン「イタ」、2015年にサイクロン「ネイサン」、そして2016年に「記録上最も深刻な世界的な大規模白化」に見舞われた。

最も新しい録音は以前の録音と比較して、「音響の複雑さ、豊かさ、および無脊椎動物からのパンという打つような音の割合が著しく減少していた」

幼魚は「より静か」な礁には惹かれない
魚は、礁に生息する捕食者に対して、より安全な広い水域で産卵する。 外洋で1か月間ほど成長した後、彼らは隠れる場所と食べ物がある、より浅い水に戻る必要があるとミーカン博士は述べた。

「広い水域を漂流してきた幼魚は家に帰る道を見つけなければなりません。そして彼らが道しるべとするのは音です」。「劣化したサンゴ礁、つまり白化と低気圧に見舞われたサンゴ礁の音は幼魚にとって、はるかに静かで、そしてはるかに魅力的ではないことが分かっています」。

これがリザード島においても同様であるのかを確かめるために、研究者たちは低気圧の前後の記録を使用した対照実験を設定した。この実験は水中で18日間毎晩連続して「離礁」と言われる他から分離した小さなサンゴ礁について実施された。
彼らは、2012年に記録された音よりも、2016年に録音された音に惹きつけられる幼魚や若い魚が一貫して少なかったことを発見した。

この研究には関わっていないアデレード大学のイバン・ナーグルカルケン氏によると、魚が音を道しるべにする現象は既存の研究で示されているが、礁の環境下での観察は、白化が広範囲に影響を及ぼすかも知れないことを示唆している。 「あなたがたが自然界の食物網について話しているとき、1つの種について話すならば、それは、食物網全体でのカスケード問題 (一カ所で起こる影響が他の箇所にも連鎖して影響する問題)について話していることになります」と彼は述べた。

記録的な白化による影響は続く
科学者らによると、2016年のサンゴ礁の白化は非常に深刻だったため、北部のサンゴ礁の一部は単に海洋の熱波による通常のストレスを受けたというよりも、熱波によって「調理」された状態だったという。 最近の研究では、白化現象がサンゴ礁の生態を変え、それによって魚や無脊椎動物にとって重要な生息地が失われたことが分かった。 ナーグルカルケン氏は、音と同様に、水温、塩分と酸性化の変化が魚の行動を変えることができると述べた。

彼のチームは魚を海洋酸性化レベルにさらし、「ここから数十年観察することになる」とのことである。

彼らは、魚が通常遭遇しないであろう生息地の音に惹きつけられ、そして積極的に自身の生息地からの音を避けたことを発見した 。
また、既存の研究は海洋の酸性化によって捕食者の匂いが幼魚の逃げるきっかけとなるのではなく、幼魚が惹きつけられるようになることも分かっている。

グレートバリアリーフの研究に20年間取り組んできたミーカン博士は、気候変動がサンゴ礁に恒久的な影響を与える可能性があると述べている。

「2016年の白化は、確かに私がリザード島で目撃した最悪の出来事だった」と彼は述べた。   「しかし、サンゴは例え非常に深刻な影響を受けても、白化現象から回復できることを覚えておかなければなりません」。「白化にどれくらいの頻繁で見舞われるかということが重要である。なぜなら、サンゴ礁を回復させるのに約10年かかるためである」。

「5年ごとに白化が発生した場合、サンゴ礁は絶え間なく破壊され、決して回復する機会を得ることはありません」

■記事を読んで… AKANE SHOJI
姿の美しいサンゴ礁ですが、その音が魚に影響を与えているとは驚きです。たしかに、生態系豊かな海に潜ると様々な音が聞こえてきて、想像以上ににぎやかですね。

にぎやかな海の生態系の一部となっているサンゴ礁にも危機がおとずれています。記事にあるようにサンゴは褐虫藻という生物と共生しているのですが、高水温や低塩分などのストレスによって褐虫藻が抜け出てしまい、骨格が透けてサンゴが白く見えることがあり、これを白化現象といいます。この状態が長く続くとサンゴが死亡することもあり、世界の様々なところで問題になっています。

サンゴの白化現象は日本でもみられており、環境省の調査によると平成29年度に奄美大島から沖縄島、石西礁湖周辺にかけての海域においてサンゴの白化現象が発生しており、平成30年度にスポットチェック法(50m四方の海底を15分間のスノーケリングする調査法)という方法で補足調査を行ったところ、石西礁湖および西表島周辺の海域の全調査地点でサンゴの白化現象が起こっていることや、沖縄島周辺の一部海域においてサンゴの白化現象が生じていることが確認されています。

このようなサンゴの衰退に対して、私たちになにができるでしょうか。国立環境研究所のホームページによると、当面の方策として、海洋保護区の設定や、土砂の流出など地域的な環境負荷を減らすなどの保全策や、サンゴ増殖・移植などの再生策が考えられ、長期的にはサンゴ礁を守るために世界各国が協力して活動していく必要があります。また、二酸化炭素の排出を減らすことで、地球温暖化と海洋酸性化の影響はかなり低減されるとのことであり、個人レベルでも二酸化炭層の排出を減らすことでサンゴの保全に貢献できそうです。個人レベルや国レベルでサンゴ礁保全の活動を実施し、たくさんの生きものが健やかに生活しているにぎやかな海を引き継いでいきたいです。

<参考文献>
・奄美大島、沖縄島、石西礁湖及び西表島周辺におけるサンゴ白化現象の調査結果について(環境省)https://www.env.go.jp/press/105831.html
・国立環境研究所 サンゴ礁の過去・現在・未来~環境変化との関わりから保全へ~
環境儀 NO.53 https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/53/04-09.html

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