クイーンズランドで4億円を投資したヒアリ根絶のための取り組みは、雨や牛の糞尿のせいで低迷している 2018/10/2

      2018/10/02

Queensland's $400m fire ant extermination effort (英文PDF)』

ABC News 2017年12月1日
担当者:Akane Shoji

≪要約≫

当初より駆除の取組みに密接に関わっている情報筋によると、オーストラリアの歴史の中で最も規模の大きな害虫駆除の取り組みは誤ったもので、「有効でない」科学技術による解決策に基づくものであり、クイーンズランドの気候に適していない毒エサを利用した方法である。

クイーンスランド・バイオセキュリティ(マルーチー研究施設に拠点をもつオーストラリア農業水産省の5主要ビジネスグループの一つ)による国家ヒアリ根絶プログラムは、社会、環境および経済的にその拡大による被害が大きい侵略的外来種であるヒアリ根絶を目標としている。

ある情報筋によると、根絶作戦の重要な要素であり最も大きな予算項目であるのは、固形エサをアリの根絶のために利用することであり、このエサは雨の日であったり濡れた地面に広がると効果がなくなってしまう。

「エサが濡れると、アリがそれに触れなくなる。」と元規制当局官のロブ・バートンは語った。

「雨の中ヘリコプターが自分たちの土地に毒エサを散布しているのを見たと、農家の人から報告されている」

根絶計画に密接に関わっている情報筋によると、天候を考慮できないということは、たとえ既にエサの散布が行われた区域であっても、効果的な駆除を確実に行うために「少なくとももう一回」エサを散布する必要がある。

その筋によると空中散布区域の「天気予報の確認」といったことは行われているが、エサが空中散布された区域の多くは2016年の世界の平均降水量を上回っていた。

根絶計画の責任者であるジェフ・ケントによると「この計画は、その質を管理するシステム改善のために機能していた」。

「ヘリコプターをどこでどのように動かすかということや、スタッフの働き方についての運用手順を厳密に運用する必要がある」と同氏は述べた。

空中検知による方法は牛の排泄物を検出する

クイーンスランド・バイオセキュリティによって実施されているヒアリの位置を把握するための方法の一つに、空中検知がある。つまり、赤外線センサーを搭載したヘリコプターによって広い空域をスキャンし、ヒアリの巣が発していると思われる熱を感知するというものである。

一部の地元民はこの技術の効果について懐疑的である。

「当初は機器の較正を行っていた」と、5代目小麦および牛農家であるブラッド・バルス氏は語った。

「これらのヘリコプターは飛び回って地表の温源全てを検出し…クイーンズランド・バイオセキュリティがその温源を確認するために人を送ったら、牛の排泄物の山だった」

根絶計画に密接に関わる大学はバックグラウンド・ブリーフィング(報道機関)に対し、空中検知技術は「有効な段階にはない」と語った。

クイーンスランド・バイオセキュリティの、とある現役職員は「空中検知で検出された何千もの温源を確認したところ、3年で2つのヒアリの巣を見つけただけだった」と述べた。

空中検知で利用されるソフトウェアの一部をデザインしたロボット専門家サラー・スッカリエは、ヒアリの複雑な問題に対して速効的な結果を期待するのは間違ったアプローチであると語った。

「これは難しい問題です。私たちは20~30cmの山について話しているのですから。それぞれの地形条件のためのそれぞれ異なったアルゴリズムを組む必要があり、これは環境にも依存します」と彼は語った。

ケント氏は、空中検知はコストパフォーマンスの高い戦略であると主張する。

「この作戦は、個体群を食い止めることについてはよい成果を出してきました。もしもヒアリが南アメリカと同じ速度で拡大していたとしたら、マッカイからウロンゴンまでの区域にまで個体群が広がっていたでしょう」と彼は言う。

「非常に低い」やる気、スタッフの定着率が伸びず

根絶計画が2001年に策定されてから、ヒアリはロッキー渓谷からゴールドコーストまで分布を広げている。ここ4年間だけで、ヒアリが生息する区域は31.6%拡大した。

この計画におけるヒアリの巣の検出の大部分は、一般市民からクイーンスランド・バイオセキュリティへの連絡によるものである。

ローガンの住人でありボランティアパークレンジャーであるスチュアート・ウェッブによると、「何千もの」巣が処理されずに残っており、計画に関わるスタッフがこれらの多くを見逃している」。

元規制当局者のバートン氏は、誤った管理が計画の成功しなかった一因であると指摘した。

「上級管理職レベルにおける人的な不手際があった」と同氏は語った。

その結果、計画に関わるスタッフの定着率が伸びなかったと彼は言った。

「計画に前向きだった人たちは、だんだんやる気が燃え尽き…意欲がひどく落ちた。これは非常に深刻なことである」とバートン氏は語った。

2016年の農業大臣諮問委員会に委託された報告書によると「ヒアリの根絶は技術的に実現可能であり、効率的かつ費用対効果が高い」と述べている。

連邦政府はヒアリ根絶のため、今年の早い段階で今後10年間に4億ドル近くの資金提供をすることを公表し、ヒアリ駆除計画を監督する独立委員会を設立した。

ヒアリは「大規模な」影響を与える可能性がある 。

ヒアリはもともと南米に生息しており、2001年以来オーストラリアで観察されている。

ヒアリに刺されると痛みがあり、死亡することはまれで、オーストラリアで死亡はみられていない。

ヒアリは米国南部に広く分布しており、1998年には3万3000人の人々が毎年ヒアリに刺されて医師の診察を受けていると推定されている。

ヒアリは非常に侵略的であり、入り込むと生態系に悪影響を与える可能性がある。

侵略的外来種協議会の最高経営責任者であるアンドリュー・コックスは、ヒアリの拡大オーストラリアの生活様式に大きな脅威をもたらす可能性があると述べた。

「クイーンズランド州南東部からヒアリを根絶しなければ、モデリングの結果、オーストラリアの99%が被害を受ける可能性がある」と、彼は述べた。

「最終的には、私たちの自然環境と経済に大きな影響を与えます。」

~感想~
今回の記事のテーマとなっているヒアリは、貨物等に紛れて気付かないうちに持ち込まれ、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、中国、台湾など環太平洋諸国に分布が急速に拡がっています。昨年度日本でも確認され、その定着を防ぐために港湾にける調査等が実施されています。このような外来アリに関しては他種のアリと競合し駆逐することによる生態系にかかわる影響、家畜への被害による農林水産業にかかわる影響や人体に関わる被害が懸念されています。急速に分布が広がっている外来アリの対策は一筋縄ではいかず、日本においては既に定着が認められている外来アリもおり、その一つにアルゼンチンアリがあります。

アルゼンチンアリは南米原産のアリで「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」に基づく「特定外来生物」に指定されています。日本では1990 年代の初めに中国地方で発見されて以降、遠隔地でも続々と定着が確認され始めています。日本の各所でアルゼンチンアリの防除対策が実施されていますが、個体数の減少が確認されたものの、根絶には至らなかったというような例も多くあります。一報、成功例としては、国立環境研究所や環境省、民間企業などのプロジェクトチームが東京都大田区で根絶を達成しています。この対策においては、2010年にアルゼンチンアリの定着が確認された東京都大田区の2箇所において、アルゼンチンアリの生息域を十分に把握した上で防除計画を立案、率的・効果的に防除を実施するために順応的な計画の変更も行い、生息域を詳しく把握した上で、丁寧に月1回毒餌を設置し続けるということを4年間継続しました。また、残存個体を見落としたまま防除プログラムを終了することのないように、毎月の継続したモニタリングデータからアルゼンチンアリが残存する方法を考案しています。

このように、外来アリは一度定着してしまうとその根絶には多くの労力が必要になることが分かります。台湾ではヒアリの侵入に気付いたときには、すでに分布が拡大してしまっており、そのあと10数年にわたり、莫大な費用をかけて防除を行なっていますが、根絶には至っていません。なるべく早期発見・早期防除することが、外来アリに対して有効であるようで、私たちも日頃から外来アリの知識をつけておくことが外来アリに対する被害防止に役立つのだと思います。

<参考文献>

・「特定外来生物ヒアリに関する情報」,

環境省HP http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/fireant.html

・雑誌「自然保護」,2018.7・8月号vol.564 P.12-13,(公財)日本自然保護協会

・アルゼンチンアリ防除の手引き,

環境省HP https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/manual_argentine.pdf

・「外来生物アルゼンチンアリの地域根絶について~数理統計モデルを用いた根絶評価手法の確立~」,国立環境研究所https://www.nies.go.jp/whatsnew/20170612-2/20170612-2.html

 - AJWCEFブログ