デビルの癌ワクチンにおける“大きな”一歩 2016/01/08

      2016/05/13

The Sunday Morning Herald 2015年7月22日

"Huge" step forward with devil cancer vaccine

"デビルの癌ワクチンにおける“大きな”一歩" (英文PDF)

担当者:SAWA & AKANE SHOJI

《要約》

タスマニアンデビルを致死的な顔面腫瘍から守る長い戦いは、免疫された個体が初めて野生に放たれたことによりを、極めて重要な段階を通過しようとしている。飼育下繁殖された19頭のデビルは、10年近くその病気と対峙しているホバートのメンジーズ医学研究所(Menzies Institute for Medical Research)のチームにより開発された試験的ワクチンにすべて反応を示している。

デビル保護プログラムのマネージャーであるデイビット・ペンバートン(David Pemberton)氏は、「これは大きな出来事だ。言わば野生デビルの回復の始まりだ」と述べた。

Pemberton博士はその病気は今や島の正面から西海岸にかけて点在しており、タスマニアの北西端では収束していると述べた。

「病気がその地域にわたって広まることは避けられないが、地域におけるデビルは10~20%が生き残るだろう。新しいワクチンは、Cedricというよく知られたデビルに初めの頃には効果がみられたものの救うことはできなかったバージョンから精製したものである。

Cedricの死んだ2010年からデビルのゲノムはマッピングされていき、メンジーズ医学研究所の科学者は今年Vaccine誌に論文を投稿し、その癌細胞を緩和することが可能であることを明らかにしている。

免疫学者であるルース・パイ(Ruth Pye)氏は、現在のワクチンは別の方法で癌細胞を治療している、つまりデビルの免疫システムが癌細胞をより発見しやすくしていると述べた。

現在のワクチンにはまた、デビルのワクチンに対する免疫反応を強化するアジュバントと呼ばれる物質が含まれている。
(要約:SAWA)

「そのワクチンがどの程度の防御反応を誘引するのかは未だ不明ですが、(初期段階の結果は有望で)成果が期待されるでしょう。」とパイ博士は言います。

新しいワクチンの試行は今年の早い時期に始まっており、放獣予定のタスマニアデビルたちはすでに4回に及んでワクチンの接種を受けている。

「タスマニア島北部海岸沿いのナローンタプ(Narawantapu)国立公園への9月の放獣の前に、彼らはワクチンの追加接種を受ける予定です。」と彼女は言います。

政府の野生生物保護官らはナローンタプ国立公園において、マイクロチップを装着されたタスマニアデビルたちを詳細に追跡調査できることを期待しており、パイ博士によると、ナローンタプ国立公園ではかつては多くのタスマニアデビルが生息していたが、未だ低いレベルで存在する癌のためにその生息数は激減した。

「我々にとっての強みは、検証のための多くのサンプルを得られるであろうことです。」と彼女は言います。「我々は、我らのワクチンがタスマニアデビルに何らかの救いをもたらすことを期待しています。」

タスマニアデビルはタスマニア島の頂点に位置する固有の肉食獣であり、パイ博士は、彼らがいなくなることは生態系に打撃を与えると言います。

このタスマニアデビルという有袋類が野生から絶滅してしまう場合に備えて、オーストラリア各地では費用のかかる保険的な数のタスマニアデビルの生息域外飼育を行っている。

《感想》

SAWA

私は現在大学でイヌやネコなどのあらゆる動物に癌を引き起こすウイルスの研究をしています。動物の顔面に腫瘍ができると呼吸ができなくなったりエサが食べられなくなったりして、最終的には死に至ります。タスマニアンデビルの顔面腫瘍は私の研究するウイルスが原因ではありませんが、癌を研究する者としては非常に興味深いです。
タスマニアンデビルの顔面腫瘍はデビルにとって大きな脅威であり、何らかの策を講じない限りデビルは絶滅してしまうと言われています。そのため今回のように、癌治療が進展したことはデビルを救う一筋の光になるのではないでしょうか。個人的にはどのような機序で癌細胞に作用するのかより詳しく知りたいので、後日論文を探してみたいと思います(笑)。

AKANE SHOJI

絶滅の危機にある動物は世界に数多くおり、その原因も開発や乱獲によるもの、外来種などの持ち込みによるもの、生息環境の悪化や破壊による生息域の減少によるものなど様々であると思います。その中でも今回の記事にあるような感染性の癌は驚くべき原因です。
IUCNのレッドリストではタスマニアデビルを脅かす危機の主要なものとして、この癌が挙げられています。この癌はデビル顔面腫瘍性疾患(Devil Facial Tumour Disease : DFTD)といわれ、口の中や周囲にできる悪性の腫瘍です。この腫瘍のせいで食べ物を食べられなくなり、通常3~6か月以内で死に至ります。この疾患は1996年に タスマニア北東部で初めて確認されて以来、タスマニア中に広がり、10年で 60%以上のタスマニアデビルが死亡したそうです。この癌は、感染した個体に咬みついたり、死亡した感染個体の肉を食べることなどによって、他のタスマニアデビルにも感染します。DNA解析の結果、一頭のタスマニアデビルから突然変異で発生した癌細胞が、タスマニア全土のタスマニアデビルへと広がっていったことが分かっています。
この記事を読んで、DFTDに対する対抗策として、ワクチンは画期的であると感じました。DFTDの細胞は、通常の哺乳類の細胞表面で見つかる「主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex、MHC)」と呼ばれる免疫作動のための重要なマーカーが存在しないために、タスマニアデビルの免疫システムから異物とみなされず、急速に増殖したということが分かっています。感染した個体を継続的に隔離するにしても、全ての個体を捕獲することは不可能ですし、保護区の範囲も限られています。それに対して、ワクチンにより免疫することで、タスマニアデビル自体の、疾患にたいする抵抗力をあげることができます。
また、この記事を読んで、野生生物保護に対して様々な学問分野が貢献できるということをあらためて感じました。野生動物保護には獣医学、生態学、動物学やそのほかにも様々な学問が関わることができます。今回のように免疫学が大きな貢献をできる例もあります。野生生物に関わる方々は様々なバックグランドや学問分野をお持ちであると思いますが、そのような人々が定まった枠をつくることなく、共に野生生物を含む生物多様性の保全に貢献していけたらよいと思います。

参考資料

「IUCNレッドリスト」: http://www.iucnredlist.org/details/40540/0
「TED Ideas worth spreadingエリザベス・マーチソン:感染性のガンと闘う」: https://www.ted.com/talks/elizabeth_murchison/transcript?language=ja
「Endangered Tasmanian Devils Return To the Wild in Test of New Cancer Vaccine」: http://www.natureworldnews.com/articles/17185/20151001/tasmanian-devils-returned-wild-test-new-vaccine.htm
「SAVE THE TASMANIAN DEVIL」: http://www.tassiedevil.com.au/tasdevil.nsf/the-disease/979feb5f116ce371ca2576cb0011a26e
「AFP BB newsタスマニアデビルを絶滅の危機に追い込む顔面腫瘍、ワクチン開発に突破口」: http://www.afpbb.com/articles/-/2933622

 

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