キタケバナウォンバットの再導入計画(2013/11/18)

      2016/05/11

Courier Mail 2013年8月15日

『Re-wilding northern hairy-nosed wombats』

"キタケバナウォンバットの再導入計画"(英文PDF)
担当者:Maki Kobayashi

<要約>

キタケバナウォンバット(northern hairy nosed wombat)は野生下でたった200頭しか生息していない絶滅危惧種のひとつであり、その絶滅のリスクはジャイアントパンダやスマトラトラより高い。しかし、革新的で新しい”re-wildling(再導入)”、生態工学の一種であり、彼らのかつての生息地に種を返すという計画は、幾度か成功を収めている上、他の種の保全にも効果を発揮する可能性がある。今、科学者たちはウォンバットの生存に見込みがあると考えている。というのも、何世紀も前にウォンバットの棲み家だったと分かっている場所があるからである。
1980年代、キタケバナウォンバットは地球上にたった35頭しか生存していなかったが、クイーンズランド州政府の環境管理部門 (DEHP) 絶滅危惧種課の科学者Alan Horsup氏は、今や生存個体は200頭に増えたと言っている。かつてキタケバナウォンバットは、クイーンズランド州からニューサウスウェールズ州、ヴィクトリア州にかけての砂地の森など乾燥地帯の至る所に生息していた。しかし、18世紀後半からの家畜との食料となる草を巡っての競争がウォンバットをゆっくりと死に追いやった。
再導入計画は、クイーンズランド州政府が15頭のウォンバットを飛行機や車を使って、クイーンズランド州中部のエッピングフォレスト国立公園から次の棲み家に転移させ始めた、2009年に始まった。そこは、アンダーウッド家が所有する牧場の一部の105haのユーカリの森である。この場所はクイーンズランド州の南内陸のSt Georgeの近くである。アンダーウッド家はウォンバットの生息地として政府に土地を寄付した。これは農家と政府の稀な協力であるが、農家のウォンバットに対する関心から実現したものである。2014年半ばには、赤ちゃんの誕生も期待されている。
現在、3回目の再配置が計画されており、計画チームは400haかそれ以上の計画に適した深い砂地の森を探している。以前はエッピングフォレスト国立公園というたった一か所の敷地しか所有していなかったが、それはウォンバットが病気、家事、洪水、犬による攻撃により極度に傷付きやすいことを意味するとHorsup氏は説明した。
再導入計画は数十年間行われているが、保護がもっと深刻に進め始められたのはほんの最近のことである。増大する受け入れ態勢の一因は、環境保護論者たちが、生態系と種が前例のない気候変動と生息地破壊の圧力下にあるいま、種が生き残ることは本質的に生態系の生き残りにかかっていると気付いたことによる。
今年3月、国際自然保護連盟(IUCN)は、毎年恒例の絶滅危惧種に関するレッドリストと平行して生態系レッドリストの編纂をしていると発表した。
この再導入計画の成功は、適した生息地のみならず、動物たちが移動後にどのように対処できるかにもかかっている。ウォンバットの場合は、地元の人々自身がウォンバットが引越し先となる巣穴を掘る掘削作業員となった。「ウォンバットは地上では長く生きられない。ウォンバットが自分で巣穴を掘るには大変なエネルギーを要するので、私たちが手伝わなければならなかった。地下の温度や湿度を調整するために巣穴はウォンバットにとって不可欠なのだ。」とクイーンズランド州政府、環境・文化遺産保護省(EHP)絶滅危惧種課、主席事業官であるDave Harper氏は話した。
ウォンバットは90mもの深さの巣穴を掘るため、哺乳類界の”技術者”として知られている。計画チームはオーガードリルを使った。これは先に大きなドリルがついたブルドーザーの一種で、ウォンバットの人工の棲み家を作るものである。これにより、ウォンバットたちは追加の巣穴を掘るという改築作業に多くの時間を費やす必要がなった。イギリスのオックスフォード大学の生態学者Clive Hambler氏によると、再導入計画は本質的に生態系を修復することである。「彼らが過去の時代に追い出されてきた生息域に再導入することは保護のカギになる。」と彼は言った。「穴掘りウォンバットのような”生態学的な技術者”と呼ばれる種を再導入することは特に重要なことである。これは、自然の地形を彼らが変化させる行動は他の多くの種に利益をもたらすためである。」例えば、ウォンバットの巣穴はハリモグラやホウセキドリ科の鳥の棲み家ともなるのである。「再導入は本質的に失われた動植物をかつての生息域に戻すこと、そして侵入生物種の根絶と、再導入後に生態系の自律を可能にすることである。」とHambler氏は言う。
しかしウォンバットの保護活動は、メスのウォンバットが通常、2年に一度、1頭の子供しか生まないということ、ウォンバットの体外受精技術(IVF)がいまだに極めて未発達の段階である、という事実に左右されている。
キタケバナウォンバットは、動物園のような捕らわれた環境下において大きなストレスを感じてしまうため、現在どこの動物園でも飼育されていない。

<感想>

キタケバナウォンバットは現在動物園での飼育がされていないということで、その保全計画は国立公園や天然の森で行われています。野生動物保護について大学で勉強しているとはいえ、まだ知識不足な私の個人的なイメージに過ぎないかもしれませんが、日本で行われている野生動物保護活動というと、動物園などでの生息域外保全が連想されます。動物園においてでさえ上手くいかないこともある保護活動、ましてやストレスに対して大変敏感なキタケバナウォンバットが再導入された土地で生活、出産できるまでにこの計画が成功していることに感銘を受けました。現地の輸送技術、移動させた後のケアも含め、その計画内容は優れたものなのでしょう。
日頃耳にする、一筋縄では上手くいかず難航する保護活動や失敗例のニュースの中、希望を持つことのできるお話でした。

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