致死的なガンと戦うためタスマニアデビルが急速に進化している2017/3/7

      2017/03/07

『Tasmanian devils are evolving rapidly to fight their deadly cancer』(英文PDF)
The Conversation 2016 年8月31日

担当者:Akane Shoji

《要約》

ここ20年間にわたり感染性のガンが野生のタスマニアデビルを死に追いやっており、それは自然保護に携わる者たちにとっての大きな課題となっている。しかし、雑誌Nature Communicationsで今日公表された新たな研究は、タスマニアデビルが致死性の感染性ガンに対抗して急速に進化しており、彼らが最終的には自らを救うかもしれないということを示唆している。

通常、ガンはその宿主とともに発生し消滅する疾病である。脊椎動物において、犬に発生する可移植性性器腫瘍とデビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)の2種類のみが、感染力をもつという非常に稀な進化過程をたどってきた。これらのガンはその宿主内で成長するのみでなく他の個体に播種することができる。ガン細胞は全て突然変異した一つの細胞から発生したものであるため、ガンは事実上不死である。

新たな宿主内で成長するためには、腫瘍細胞が免疫システムによる認識及び排除から免れる必要がある。タスマニアデビルと犬の感染性ガンはどちらも宿主の免疫システムから逃れるための洗練された仕組みを有している。それにも関わらず、タスマニアデビルがこの疾患に対して抵抗性を発達させているということを我々の研究は示唆している。

生態学的大災害
タスマニアデビルはとても重要であり失ってはならない存在である。タスマニアデビルが失われたならば世界最大の捕食性有袋類であったフクロオオカミが1930年代に絶滅したことに続く失態となるだろう。フクロオオカミの絶滅以来タスマニアデビルは捕食性有袋類の最上位に位置し、そのおかげでタスマニア沿岸において有害なノネコ(野生化した外来の猫)の数が適正に保たれている。タスマニアデビルの減少によって外来種の活動がより活発になってきている。

1990年代半ばにタスマニアの北東でDFTDが初めて確認されてから、DFTDは南と西へとゆっくりと広がった。そして、それは数年でタスマニア全体へと到達し、まだ病気が広がっていないのは遠く離れた北海岸と南西の一部分のみである。

(写真下:DFTDは、20年を渡ってタスマニア島に拡がってきた。Menna Jones氏は言う。)

タスマニアデビルの生息数は少なくとも80%ほど減少し、いくつかの地域では、地域で疾病が大流行してから6年以内に生息数が90%以上減少している。

DFTDによって、繁殖力のある成熟した個体のほとんどが死亡した。この疾病が発生する前は、ほとんどのタスマニアデビルは生涯にわたり3頭の子どもを生んでいた。現在、多くのデビルはたった1頭の子を持つのみである。

残された生態系は最高位捕食者としてのタスマニアデビルが減少した影響を急激に受け、より多くの種が失われるだろう。既にノネコの活動が活発になり、その餌となる小さなほ乳類が減少している。

ノネコは、東部フクロネコの個体数回復を妨げている可能性もある。フクロギツネは牧草地で自由に草を食べるといった、まるでタスマニアデビルが既に絶滅したかのような行動をみせている。

行動の進化
我々の研究は真に国際的な努力の賜物であった。我々はタスマニア大学のMenna Jones氏が1999年から集めたデータを用いた。この組織サンプルの保存記録は今や、野生下における感染性疾病発生の進化を研究するために世界中で最も優れた資料のうちの一つとされている。

ワシントン州大学のAndrew Storfer氏とアイダホ大学のPaul Hohenlohe氏は、DFTDが発生する前と発生してから8~16年経ってからのタスマニアデビルの遺伝子頻度を比較した。

我々はタスマニアデビルのDFTD が発生している箇所のDNAサンプルの2つの小さな遺伝子領域において、重要な変異を特定した。この2つの領域にある7つの遺伝子のうち5つがほ乳類のガンまたは免疫機能と関係しており、このことはタスマニアデビルが実際にDFTDに抵抗性をもつ進化をとげていることを示唆している。通常、進化はゆっくりした進行過程を経ると考えられているが、これらの変化は病気が流行してからたった4~8世代程という短い間に起こっていた。

タスマニアデビルが絶滅するであろうという予測モデルにも関わらず、彼らは長期にわたり生き抜いている。以前の研究では、DFTDの疾病率が低いタスマニアデビルには免疫反応において特定の変化がみられるということが示されていた。我々の遺伝子研究の結果はその理由を説明できるかもしれない。

新たな感染性疾患はその宿主が進化する強いきっかけを与え、それが急速な抵抗性や耐性の獲得につながる。急速な進化にはもともと遺伝的多様性があることが必要である。我々の研究結果は驚くべきことである、なぜならタスマニアデビルは遺伝的多様性に乏しいからである。

進化はタスマニアデビルにおいてのみではなく、疾病においても認められる。この疾病は自身が他の宿主に広がることができるまでは宿主を殺さないように進化しているが、同時に、宿主の抵抗性に打ち勝つようにも進化している。ウサギと粘液腫ウイルスが共に進化したように、しばしば病原体(病気の原因)と宿主はともに生きるように長きにわたり進化してきた。

我々の研究結果は、野生のタスマニアデビルが進化を通して自身を救う可能性を示唆している。しかし、管理者にとって、それを手助けするための策略をめぐらせることが重要である。例えば、今まで疾病に曝されたことがなく疾病に十分な感受性を持ったタスマニアデビルを抵抗性が獲得されつつあるタスマニアデビルの集団の中に放つことは逆効果であろう。

新たな病気や、感染性のガンとその宿主における進化の初期段階について研究するための、またとない機会をDFTDは提供している。我々は将来的な研究を通して、ガンがどのように感染性となり、その宿主がどのように反応するのかということを最終的には理解するかもしれない。

記事を読んで…
AKANE SHOJI

多くのタスマニアデビルを死に追いやったDFTDですが、この記事を読んで少し明るい兆しが見えてきたように思えます。また、この記事ではさらに、進化というものの不思議に驚かされました。進化においては、生物の個体群の遺伝子頻度が変化し、世代を重ねるにつれてその性質を変化させていきます。そのような進化は一般に長い時間がかかるものと思います。しかし、今回の記事にあるように4~8世代という非常に短い期間でタスマニアデビルが病気に抵抗性を持つ進化をたどっており、このことは非常に興味深いことです。
病原体とその宿主が共に自身が生き残るために戦い合いながら進化をしている例は他にもいくつかあります。今回の記事に出てきたウサギのミクソーマウイルス(粘液腫ウイルス)は、ウサギに感染すると顔面皮膚の腫脹を特徴とする病気です。オーストラリアではウサギの駆除をするため、1950年に毒性の非常に高い粘液腫ウイルスが人為的にウサギの個体群に導入されました。その後1年でウサギの数は減少しましたが、その数年後、粘液腫ウイルスの毒性がその導入時よりも大幅に低下していた一方、それよりも毒性の強いウイルスはそれ以上毒性が低下せずに、中間の毒性にとどまっていたそうです。ウイルスによるウサギの致死率は最初は、ほぼ100%、数年後には50%ほどになっていたということです。今回の記事にもあったように、病原体は宿主を殺してしまうと病原体自身が増える期間が減少するので次第に毒性が弱くなり、反対に毒性が弱すぎても、宿主の免疫系にやられてしまいます。そのため、中間ほどの毒性が、病原体の増殖にとって一番有利となります。このように、病原体と宿主は非常に複雑な関係性を築いているといえます。DFTDにおいては、誰かが病原体に強いタスマニアデビルをつくったわけでもなく、自然と抵抗性をもつタスマニアデビルが短期間に現れており、進化というものは本当に不思議なものです。
記事全体を通して、生物はその個体だけ、その種だけで生きているわけでは無く、周囲の生物や環境と密接に関わりあった、動的な存在なのだということをあらためて感じました。だからこそ、どこか一部で変化が起これば他方に影響が出ます。その影響が良い方向へ行くならよいのですが、あまりに過度な変化を与えすぎると、大きな変化の影響がでてしまいます。強くて繊細な生物のつながりの中で、ヒトも自然環境と良い関係を築いていきたいと思いました。

<参考文献>
・P.J. Kerr , S.M. Best(1998)"Myxoma virus in rabbits, " Rev. sci. tech. Off. int. Epiz., 1998,17 (1), 256-268, http://www.oie.int/doc/ged/D91
・YOMIURI ONLINE知の拠点セミナーパンデミックから共存へ
http://sp.yomiuri.co.jp/science/feature/CO005189/20140311-OYT8T50014.html

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