限界に達する野生動物病院、動物ケアラーの過労と財政難 2019/12/10

      2019/12/17

『Wildlife hospitals at breaking point, animal carers overworked and underfunded』(英文PDF)

ABC News  2019年 1月14日

担当者:中村 浩太郎

≪要約≫
Shelly Lloyd記

約一年ほど前、Taylor女史は野生動物ケアラーとして、ニューサウスウェールズ中部海岸沿いのオーストラリア海鳥救助団体(ASR; the Australian Seabird Rescue)に参加した。

その後彼女は、最近保護したものを含め4匹のペリカンを健康な状態になるまで世話し、野生へと返した。

Taylor女史は、彼女が世話したペリカンのDiegoについて、攻撃的で気難しかったが彼女に対しては非常に保護的だったとし、また保護してきたペリカンについては「私は彼らを愛している。彼らはそれぞれが異なった個性を持っていたが、Diegoはその中でも最も良い性格をしていたと思います」と述べる。

そして「Diegoは私の膝の上に座り、もし私の近くに誰かが近づいてきたらその人をつつこうとしました。でも私にはそうしませんでした。彼が私を食料源として認識していたのかどうかはわかりませんが、これはとても面白いことだと思います。」と振り返った。

Taylor女子はオーストラリア中に登録されている何千人という野生動物ケアラーの一人であるが、ケアラーの人数は減少傾向にあり、これは絶望的なケアラーの数の不足、そして患者数の超過を抱える野生動物病院の発生に繋がっている。

野生動物ケアラーの”疲労”

RSPCA Queensland支部のAnimal Focusに所属するSheila Collecott女史によると、Brisbane西部WacolにあるQueensland野生動物病院は世界で最も忙しい野生動物病院の一つとされている。

Queensland野生動物病院は2012年にRSPCA Queensland支部によって設立され、傷病を抱えた動物の治療にあたっており、地元の救急隊やライセンスを受けたケアラー、獣医師のネットワークによって支援されている。

昨年Queensland野生動物病院は10,000頭の動物を治療する見込みだったものの、年末までにおよそ21,000頭もの動物の治療にあたった。

Collecott女史は「私は世界中の他の病院がこれほどまでの数の動物を受け入れているとは聞いたことがない」とし、このまま需要が続けば野生動物病院はすぐに限界に達してしまうと言う。

さらに、「ある時点で今のままではいかなくなります。これは大きな問題です。私達は、増加していく需要に対してどのように対処していくか、ということを日々自分自身に問いかけています。私達はキャパシティ以上に病院を成長させ続けてしまい、将来どのように向き合うかということを考察しなければなりません。」と述べ、治療を必要とする野生動物の増加によってケアラーが負うストレスや金銭、負担によって野生動物ケアラーが手を引いてしまったと指摘する。

「彼らが世話する膨大な総数の動物によって極度の過労を感じる野生動物ケアラーたちが高い確率で存在しています。動物の世話をする際にケアラーに必要な負担によって引退・辞任した多くの高齢なケアラーを抱えています。私は、不幸にも人々が自身の生計を立てるために動物の世話という役目を犠牲にしなくてはならないのだと考えています。」

政府はケアラーたちの負担をカバーしなくてはならない

Collecott女史は、Queensland州南東部における野生動物への傷害の大幅な増加について、都市部の成長や発展を非難している。

彼女は、今こそオーストラリアの政府は歩み寄り助けるときだという。

「これらは国の動物であり、厳密には政府がこれら野生生物を所有しています。それは飼い主のいる犬や猫とは違います。」と彼女は述べ、以下のように続けた。

「なので、もし私達がこの動物を保護しようとするのであれば、政府を後押しし、私達、あるいは野生動物ケアラーの金銭的な面での補助をする必要があると言う必要があります。」

RSPCAはQueensland野生動物病院の運営に、一年間で330万ドルの費用がかかるとしている。

Queensland州政府はこの運営に対し、寄付による残高から50万ドルを一年間で支出している。

オーストラリア連邦政府は最新の選挙活動の間に100万ドルの支援を公約として掲げており、またRSPCAのMark Townend氏は連邦政府環境大臣のSussan Ley氏に対してこの基金の保持についての努力を書面にて要求した。

Collette女子は、野生動物ケアラーがどのように許可を得るかということを再度評価する時でもあると言う。

「野生生物のケアラーには、今以上の調整と確認、そして適度なバランスが 必要です。」

オーストラリアにおいて、人々は野生動物保護グループの会員であることを通じて野生動物保護の許可を得ることが出来ますが、このため政府は誰が許可を得ているのかということを確認する能力を失っています。

「世話が必要な膨大な数の動物の流入の対処にあたるケアラーが要求するサポートを受けられるように、システム全体を見る必要があります。」

Annette Bird女史は14年以上Queensland南東部で野生動物の保護に携わっており、傷病を抱える動物のケアへのプレッシャーについて知る人物である。

「昨シーズン、私は40匹以上の毒を持つ蛇を世話しましたが、それは動物の一種類にしか過ぎません。合計では359頭の動物がこれまでに私の家で過ごしました。」と言う。

Reptile Rehabilitation Queensland(Queensland爬虫類リハビリテーション)の総長を努めているBird女史は、保護を望む、あるいは保護する能力を持つ人間の過度な不足のみによって野生動物が死んでしまったのではないかと憂慮している。

「確実に野生動物ケアラーの不足は起きているし、もし爬虫類を世話するとしても、その状況は厳しくなっています。というのも私は、世話をしている動物がケアラーを殺すことが可能である、という状況を受け入れることが出来る人間は、恐らくさほど多くないのではないかと推測しているからです。」とした上で、「オスのウォータードラゴン(オーストラリア東部に生息する大型トカゲ)の成体一匹のリハビリに一年間にかかる費用は約680ドル程度です。私は本来この支払いをする必要はなかったはずです。もし私が(保護活動を)なにもしていなかったら、何年も前に私は自分の家の支払いを完済していたでしょう。しかし他に方法はなかったのです。私達は動物を助けるためにより多くの財源を必要としています。ケアラーへの資金提供の機会は現実的に話にならないレベルです。」と述べた。

バスタブを愛するペリカンのDiegoは、まもなく野生へと返される。

Taylor女史は、我慢との別れのときというのはいつもほろ苦い瞬間だと言う。

「私は少し悲しくもありますが、しかし野生動物が野生に戻っていく準備が出来ていることに本当に興奮を覚えます。私が最後に世話をしたメスのペリカンは自然に放したとき、飛びながら私を振り返って完璧な円を描きました。まるで彼女がありがとうとさようならを言っているようでした。とても驚くべき出来事でした。」

感想

トレーニングコースを通じて訪れた各施設でも、傷病を持つ野生動物の増加や経済的な問題が影響を及ぼしているとお聞きしました。日本と比較してもボランティア活動や寄付という文化がより一般的であるオーストラリアであってもこのような問題が生じている、という事実を知る必要があると強く感じます。本稿内で野生動物のケアには大きな負担がかかるとされていますが、実際にボランティアに従事できるように専門的な知識を持つ人材を育成する、こういった事実を広報して人材を集めていくことも並々ならぬ労力を必要することと想像できます。あくまでも記事の中で述べられている内容は数多く存在する問題の氷山の一角に過ぎません。一方で、この記事でもあるように人々が力を合わせれば政府を動かすような行動に繋げることも可能である、ということもまた事実でしょう。この記事で触れられている問題の奥に潜む沢山の問題点も重要ですが、新たな可能性を検討することも出来ると考えられます。

また、現代ではSNSを通じて情報を発信することが中心となっていますが、記事からも読み取れるように元々野生動物保護に興味がない人々にこういった事実を広めていくことは、やはり困難であるというのが実情のようです。情報技術が発展している今、私達は容易に様々なコンテンツにアクセスでき、それを拡散することも可能です。移動中や寝る前のちょっとした空き時間にぜひ国内外の様々な情報に触れ、また発信していただきたいと思います。

私達が出来ることは非常に限定的ですし、特に日本国内で生活しているとこのような活動を見落としがちです。声を上げて活動する方もおられますが、そのムーブメントがより大きくなっていくように今以上に大きく強固なネットワークを築く必要性を、この記事を翻訳しながら改めて確認しました。

この記事を読んだ方がオーストラリアの野生動物保護の実情を知ると同時に、国内でどのような活動が行われているかということに目を向けるきっかけになってほしいと切に願います。

 

 

 

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