遺伝学の研究により純血種のディンゴは研究者が考えていたよりもより一般的であったことが判明 2023年9月22日
『Purebred dingoes more common than researchers thought, genetic study finds』(英文PDF)
ABC News
Caitlin Rawling記
2023年5月30日
担当:Y.A.
【要約】
新たな研究によると、ディンゴは犬の祖先ではなく、研究者が考えていたよりもより純血であるということを示唆している。この研究では、ディンゴの個体群の遺伝分析によりディンゴには犬の系統によるものが少なく、野生にはもっと多くの純血種のディンゴがいるということが示されたということがわかった。
この研究では、これまでの研究ではディンゴと犬の混血種の頭数が過大評価され、オーストラリアにおける「野犬」の頭数をコントロールするために実際には純血種のディンゴの頭数をコントロールしていたという致命的な方法が使用されていたことが示唆された。また、研究では交雑は遺伝的希釈により絶滅する可能性があるので純血種を脅かす可能性があるということも示唆されていた。「何十年もの間、ディンゴが彼ら自身の間で繁殖し続け、絶滅に向かっているのではないかという懸念があった。だが、私たちの研究の結果はそうではなく、ディンゴは彼らのアイデンティティを広く維持していて、それは管理と保全への影響をもつ。」と研究の筆頭著者と保全生物学者であるカイリー・ケアンズ博士は述べた。
交雑種よりも多くの純血種のディンゴ
研究者らはオーストラリアの異なる地域で生息していた391頭もの野生のディンゴや捕獲されたディンゴのDNAの分析を行うために新しい全ゲノム試験を使った。彼らは、野生のディンゴがこれまでの遺伝子研究で示唆されたものよりも犬の祖先とは遠くかけ離れているということを発見するために、詳細な祖先モデリングと生物地理学的分析を行った。
「比較的少数の遺伝子マーカーと限られた参照集団に頼る古い研究方法では、ディンゴのサンプルの中での犬の祖先の量を過大評価しており、時には30%以上の場合であっても多いとされていた。」とケアンズ博士は述べた。
また、ケアンズ博士は「古い方法では実際には純血種や歴史的な戻し交配によるものであっても交雑種だと区別されることがよくあったためだ。」とも述べている。「以前の試験ではゲノム全体のうちたったの23ポイントしか調査できなかったのに比べて、新たな試験では195,000ポイントを調べられるようになった。つまり、信頼性と正確さにおいて大幅に向上した。」
以前の調査書で純血種のディンゴの個体群が4%しかいないと示唆されたビクトリア州では、新たな研究で調査された動物の87,1%が純血種のディンゴで、6,5%が93%以上のディンゴの祖先をもつ歴史的なディンゴの戻し交配であることが判明された。
ディンゴと犬の交雑種が蔓延していると推定されているニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州でもまた、ほとんどの動物が純血のディンゴであるとわかり、ディンゴの祖先が70%未満の野生のイヌ科動物は2頭だけであった。
ノーザン・テリトリー、南オーストラリア州、西オーストラリア州でもまた、ディンゴの個体群の中で交雑種であるという証拠は少なかった。
ケアンズ博士は,旧式のDNA検査方法は、オーストラリアにおけるディンゴと犬の交雑種が実際よりもより一般的であると研究者らに信じ込ませていると述べた。「ほとんどの野生のディンゴは純血のディンゴで、残りの動物種は他の何よりもディンゴの血が濃い。」と彼女は述べた。「ディンゴと犬の交配が進んでいるオーストラリアの地域でさえも、私たちが信じているような脅威が蔓延しているわけではない。」
研究サンプルとなった動物種はどれも50%の雑種ではなかったので、野生の中には犬とディンゴの直接の子孫は存在しなかった。
純血ではない少数のディンゴはほとんどが過去4,5世代前の一匹の犬の祖先との戻し交配だった。「これまでにもいくつかの交雑があったが、今日では交雑が急速なペースで起こってはいない。」とケアンズ博士は述べた。
研究では、オーストラリアの本土全域で4つの異なる個体群がいて、ディンゴの重要な地域的な変化もまた発見した。「進化的な利点の供給により、何匹かの犬のDNAがディンゴのゲノムに組み込まれてきた可能性もある。そのため、新たな検査を使用して未来の研究で調査する予定である。」とケインズ博士は述べた。
この発見は全ゲノム分析が正確な祖先の識別を行うことを実証する他の種の研究とも一致しており、政策立案者はディンゴを管理する情報を提供するためにそれを使用することができる。研究の主著者で保全生物学者であるマイク・レトニック氏は「新たな全ゲノム検査はより正確なディンゴの個体群の提示に役立つだろう。」と述べた。
「私たちは今、ディンゴに適用する、より高密度のゲノムデータを用いて個体群をより正確に評価する高度な方法を持ち、そして、入手可能な最善のエビデンスを用いて管理戦略に反映させることができる。」
ディンゴの管理方法
「野生の犬」という用語はオーストラリアにおいてディンゴと犬の交雑が広く普及し、生き残っている純血のディンゴがあまりいないと予測されていた元で広く使われていた。「野生の犬」という名前の元ではディンゴ、ディンゴの交雑種、および野生の飼い犬は全て外来種と見なされる。「野生の犬」はバイオセキュリティという法の元では、在来動物が守られている国立公園を含むオーストラリア本土の一部で空中餌付けや罠などの駆除装置の対象となっている。
全てのディンゴを野生の犬として考えるのは便利である。しかし、この用語は多くの純血のディンゴとディンゴの優性戻し交配が殺されているという現実を曖昧にしている。」とケアンズ博士は述べている。「実際には、保護されるべき場所を含むあらゆる地域において、殺処分の対象となっているディンゴと全く同じように扱われている在来種は他にいません。」
研究では、ディンゴのいない環境ではカンガルーや、キツネ、そして野良猫が超過し、これは他の在来動物を脅かし、また、植生を著しく変えてしまう可能性があると示唆した。「ディンゴは他の家畜の脅威となるが、全ての状況において有害とはならない。彼らは生物多様性や生態系の機能を管理する捕食者の頂点として重要な役割を担っている。」とレトニック教授は述べた。また、「人間がディンゴの個体数を維持するにはバランスが必要だ。」とも述べた。
特にディンゴの繁殖期における殺処分は、純血のディンゴが減少していることにより、誤って交配のリスクが高まる可能性がある。しかしながら、そのリスクを確定するにはさらなる調査が必要である。
「以前示唆されたように、ディンゴと犬の交雑が多く起こっているわけではないが、ディンゴの交雑は起こっている、それは集中的な殺処分行われている地域や飼い犬の数が増加している地域である。」とケアンズ博士は述べた。
研究者らは保全政策における「ディンゴ」の定義を93%以上のディンゴの祖先を持つ歴史的なディンゴの戻し交配も含め、「野良飼いの犬」とディンゴを区別するように修正するべきであると提案した。「そうすることで、オーストラリアにおける野生のイヌ科動物のアイデンティティがより正確に反映され、在来種や文化的に重要な種としてディンゴの価値が認められるようになる。」とケアンズ博士は述べた。
【感想】
今回は「ディンゴ」に関する記事を担当したが、私はオーストラリアに行く前までは「ディンゴ」という存在すら知らなかった。オーストラリアでディンゴを見た時に、最初に思ったことは「犬じゃん、犬との違いがわからない」であった。David Fleay Wildlife Parkではディンゴの散歩をさせてもらったが、賢く、可愛かったのを今でも鮮明に覚えている。
この記事を読んで、ディンゴはオーストラリアの生態系や植生において重要な動物であるということがわかった。除外される対象としてではなく、保護されるべき動物であるという認識が広く普及してほしいと思う。