新しい管理方法を進める防止柵北部におけるディンゴの「機能的絶滅」について警鐘を鳴らす生態学者たち 2020年9月29日

      2020/09/29

『Ecologist warns of dingo 'functional extinction' north
of dog fence ahead of new controls』(英文PDF)

ABC News
Leah MacLennan記
2020年4月24日

 

担当:M.H.

 

《要約》

オーストラリア南部の生態学者が野生の犬の置かれている状況の変化に対して、新しい政策が一部の場所でディンゴを「機能的絶滅」に導く可能性があるとして警鐘を鳴らしている。

南オーストラリア州政府の提案した改革は、ここ20年間で州の野犬防止柵の北部と南部で共に野生の犬の個体数が増加し、畜産業を危険にさらしていることへの懸念に対して提案された。野生の犬の管理は、多くの場所で築後100年以上も経過している約5400㎞に及ぶ野犬防止柵によって行われている。

防止柵から北部の地域では、野生の犬は有害動物とみなされて厳密に管理されており、その一方で防止柵から南部の地域では、彼らはオーストラリア固有のディンゴとみなされ問題を起こした際のみ管理されている。

南オーストラリア州政府は防止柵の大部分を作り直し、防止柵より南部の全ての土地所有者に最低限の毒餌給餌基準を課し、州における毒餌の空中給餌を認める法案を提案した。しかしながらNew South Wales大学の生態学者であるKatherine Mosebyさんは、ディンゴと野生の犬の間に遺伝的違いはあるのだろうかと疑問を投げかけている。「彼らはこの政策を野生の犬に対する政策と呼んでいるが、実際はディンゴに対するものである。」とMoseby先生は言う。「オーストラリア南部のディンゴはオーストラリアにおけるディンゴの純血種の一つであり、実のところ私たちは野生の犬について話しているのではなく、ディンゴについて話しているのだ。」

 また、政府は新たに土地保有者による野生の犬の処分に対して120ドルの助成金も与えている。Moseby先生は防止柵より南部のEyre Peninsulaの私有地を自然保護区に変え、羊の牧草地に必要とされている管理を許可している。しかしながら、彼女は防止柵より北部の畜産地域において、もし初めて毒餌の空中給餌が許可された場合、政策の改革がもたらす打撃について懸念している。

 「今防止柵の周辺を長いこと車で走ると、ディンゴを見かけることができるでしょう。」と彼女は言う。「彼らはかなり見つけにくいですが、特に豊水の年にはおそらく何匹か見つけることはできるでしょう。私たちがこのような形の改革を進めた場合、ディンゴは防止柵より北部では極めて希少になってしまうでしょう。私たちはより彼らを見かけることがなくなり、一部の地域では機能的に絶滅してしまうでしょう。」「機能的絶滅」とは、もはや生態系において役割のないある種が絶滅に向かって衰退し、最終的に絶滅することを指す。Moseby先生は、土地所有者が所有地内に犬のいる証拠を見つけていないにもかかわらず毒餌を設置しなければならないということを意味する、防止柵南部における最低限の毒餌給餌基準についても懸念を示している。

 

野生の犬の脅威を恐れて「起きたまま横になる」牧羊家たち

 しかし産業界では、幅広い取り組みが必要だと考えられている。犬の防止策委員会の委員長であり北部中央の牧羊業者であるGeoff Powerさんは、犬の個体群はますます南に移動しており、彼と近隣の人はその脅威に直面しているという。

 「彼らは一夜に30、さらには40匹もの羊を殺すことができ、彼らに殺されなかったものもひどく傷ついて生き延びることができないため処分しなければならず、アニマルウェルフェアに関わってくるような問題なのです。」と彼は言う。「私は一つの所有地に2000匹近くもの羊がいたのに、6か月後にたったの150匹しか毛刈りできなかった人を知っています。これではちょっと持ちこたえることができません。」

 それは南オーストラリアの農業大臣であるTim Whetstoneさんが言っていた、彼とSteven Marshall州首相が農場経営者と干ばつの脅威について話し合いながら州を巡回していたときに聞いた話と同じようなことだ。「だから私たちは他の管理手段の中にある境界線の計画を整備しなかったのです。」とWhetstoneさんは言う。「私たちは、ほとんどの夜をただ野生の犬によっていったい何匹の羊を失うことになるのだろうかと、目を覚ましたまま横になって考えて過ごしている牧羊家と家畜生産者を支えたいのです。」

 南オーストラリアの家畜産業においてディンゴの管理についての幅広い支援があるのに対して、Queensland西部の農場主であるAngus Emmottさんは、特に防止策の北部では、この問題への異なった取り組みがあると言う。彼はここ数十年所有地においてディンゴを処分したことがなく、推定される彼の所有地にいる20頭から30頭の犬は野生の動物やカンガルーの個体数を管理するのに役立っているという。

 

「ディンゴと羊はうまくやっていくことができず、ディンゴとヤギもうまくやっていくことはできません。しかし、私は畜産業の盛んな地域でただディンゴを単独で放置することは、あらゆる多数の利益を与えてくれるということに気が付きました。」とEmmottさんは言う。「少し弱い、奇形な子羊を失ってしまうことはありかもしれない。しかし、ディンゴの家族をそのまま放置してあげると、系統的にディンゴを迫害しようとする時に起こるような子羊を略奪したり、追いまわしたりといったことは起こらなくなる傾向にある。」

「系統的にディンゴを迫害したときに何が起こるかというと、ディンゴの家族構成が破壊され、若いディンゴが溢れ、彼らは遊びとして家畜を追い回し、子羊を殺してしまうのです」

 

生態学者が「正しいバランス」を呼びかける

 Mosby先生は、Emmottさんの例は管理が時には必要であるが、ただし、科学的証拠のある問題がある時だけ管理されるべきであるということを表していると言う。「時々私たちは家畜を守るためにディンゴを管理する必要がありますが、ほとんどの場合は必要ありません。」と彼女は言う。「私たちはバランスを正しく保つことを確実にする必要があるが、政策はバランスを正しく保っていくことを保証するものであるという確信を何一つ私に与えてくれない」

 Whetstoneさんは政府は広範囲にわたって協議しており、有機農家への免除に加えて、防止柵の北部での毒餌給餌が与える打撃についての懸念を考慮しようとしてきたという。「私たちは補助金、防止柵、毒餌給餌、ディンゴの狩り人だけでなく、様々な権利を得てきたと考えられます。」とWhetstoneさんは言う。「私たちは私たちにとって輝かしい存在の一つであるべきここ南オーストラリアにおける43億ドルもの家畜産業を守るために、やらなければならないことは何でもできるということを示したいのです。」

 州政府における協議会は、今後来年に予定されている最後の政策の公示をもって改革をいったん打ち切ることを提案した。

 

<感想>

以前野生動物保護トレーニングに参加した際、David Fleay Wildlife Parkにも数頭のディンゴがおり、そのエサづくりを通してエンリッチメントについて学習する機会がありました。この時はディンゴが時折凶暴なため問題になることがあると聞いてはいたものの、それほど大きな社会問題になっているとは思っていませんでした。ところが今回この記事を読み防止柵や毒餌を使用した管理が行われていることを知り、驚きが隠せませんでした。牧羊家にとってディンゴは大きな損失を生む害獣のような存在であるかもしれません。しかし生態系の多様性を守るためにも、ディンゴを一つの貴重な種としてとらえ、人間とディンゴが共生できるような道を模索していく必要があると感じました。

 - AJWCEFブログ