幼稚園の赤ちゃんコアラ マーシャの卒園式!2010年7月18日

      2016/05/06

kindyモギルコアラ病院には、事故や病気でお母さんコアラを失い、
人間の手で育てられた赤ちゃんコアラ達が、野生のコアラとして森に旅立つ為の
準備をするキンディ(幼稚園)と呼ばれる施設があります。

2.5kgになると、人間のお母さんを離れ、このキンディに入ります。
ミルクを卒業し、ここで高い木に登って自分でユーカリを食べる練習をします。
それだけではありません。このキンディには人間を忘れさせるという大切な役割があります。
野生にかえす事が最大の目標です。
また、もし人間になついたままの状態で野生の森に旅立たせれば、
そのコアラは人間を見ればミルクがもらえるのではないかと思って地面に下りて来るかもしれません。
不必要に地面に下りてくる事は、犬や車といった危険との遭遇が増える事を意味します。
キンディでは、出来るだけ人間とコアラの接触を減らし、そっと見守ってあげる事が大事です。

実際に赤ちゃんコアラを育てたケアラーが、キンディを訪れて、
自分の育てたコアラが自分の事を忘れてしまっているのを見て
「良かった!大成功ね!」と喜ぶ姿を何度も見たことがあります。
普通なら、あんなに一生懸命お世話したのに覚えてないなんてショック!と言いそうなところですが、
忘れてくれてて良かった…というのは、彼女たちの赤ちゃんコアラへの本当の愛情の表れなのです。
でも、いくら人間のママを忘れる事がコアラにとって良いことでも、
育てたママの方はそのコアラを忘れる事はありません。
卒業してしまえば、もう会えなくなってしまいます。
旅立った赤ちゃんが「無事にしっかりやっていますように」と毎日祈っています。

マーシャの卒園の日がやって来ました。
モギルコアラ病院から出発して、周りに建物の殆どない森にやってきました。
小さなカゴに入っていたマーシャをユーカリの木に近づけると、ゆっくりその木に登り始めました。
途中で何かいつもと違うと思ったのか、じーっと木に掴まったまま動きません。
でもそのうち徐々に高く上って行き、そこでちょっと落ち着いた様子で毛づくろいをします。
でも、まだそこで落ち着くのか不安で、首が痛くなるほど木を見上げて、マーシャを見守りました。
そしてついに手近にあった葉の匂いを嗅いで食べ始めたのです。

よかった、ここでちゃんとやって行けそうだ、大丈夫だろう…
そう判断して私たちはマーシャを後にします。ちょっと食べては、ちょっとこっちを見ます。
マーシャが独り、高いユーカリの木に置き去りにされていくようでした。でもそれは置き去りではないのです。
マーシャの本当の生活が始まったのです。マーシャはもう何処へ行っても良いのです。
もう二度と会えないでしょう。
マーシャは動物園のように区切られた土地の中で生きていく訳ではありません。
果てしなく続く彼らの森に帰り生きていくのです。
でも、人間が全てを所有していると勘違いして好き勝手に破壊するせいで、
この先、危険な目に遭うかもしれません。地球上の土地や川、海は私たちだけのものではない。
マーシャが居る森は、マーシャの森ですし、森はマーシャを所有している。
マーシャを囲む森全体を見てそう思いました。
人間だけの都合で好き勝手できるものではありません。
この森を破壊する事はマーシャを破壊する事に他なりません。

今回はマーシャと出会いました。
でも、マーシャに限らず、私たちが出会うことのない、
名のない誇り高い動植物の幸せも尊重できる人間にならなければいけないと思いました。

ここでは多くのボランティア団体が野生動物のリハビリ活動以外に実際に生息地の保護活動を行っています。
モギルコアラ病院アソシエーションでは野生動物保護区として土地を買う活動や植林、
またイプスウィッチ・コアラ・プロテクション・ソサエティ等のボランティア団体でも
野生動物生息地マップを制作し、自治体との交渉によって土地開発計画の見直しを実行しています。

By 平野聡美

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