南オーストラリア州におけるコアラの過剰繁殖により、人道的な繁殖制御が求められている。
英文: Koala overpopulation in South Australia prompts call for humane fertility management
記者: リサ・ロック編集、ロバート・イーガン監修
発信元: シドニー工科大学
記事発信日: 2026年01月20日
翻訳者: J.U
(写真注釈 )研究者によると、南オーストラリア州の多くの地域では、コアラの個体密度が持続可能とされる水準を上回っている。
シドニー工科大学(UTS) とオーストラリア博物館のフレデリック・サルトレ博士によって主導されている南オーストラリア州のコアラ個体数に関する研究は、この地域初の包括的な個体数推定を提供し、現在の持続不可能なコアラの個体数を安定させるための費用対効果が高く、人道的な解決策を明らかにしている。
学術雑誌「Ecology and Evolution」にて掲載された本研究は、オーストラリア博物館の研究科学者であり、UTS の生態学および生物地理学の上級講師でもあるフレデリック・サルトレ博士が主導した。
調査によると、マウント・ロフティー山脈に生息する南オーストラリア州のコアラの個体数は、現在オーストラリア全体の約10%を占めており、長期的な生存が脅かされている。
このまま対策を取らなければ、今後25年間でこの個体数はさらに 17〜25%増加する可能性があり、食料供給や植生、原生生息地に影響を与えると予測されている。
マウント・ロフティー山脈領域の個体数問題
「東オーストラリアの広範囲な地域ではコアラの個体数は急激に減少しているが、南オーストラリア州のマウント・ロフティー山脈では逆に急激に増している。本来は良いニュースのはずだが、この増加は懸念材料となっている。」
現在、コアラの個体密度は多くの地域で生態系が持続可能な範囲を大きく上回っており、 食料として依存する森林を急速に損なう可能性のある深刻な食害のリスクが高まっている。
「このままの傾向が続くと、今後数十年以内に大規模なコアラの飢餓や死亡という悲惨な状況がほぼ確実に起こるだろう。」とサルトレ博士は述べた。
研究者たちは、高度な空間モデリングと市民科学による数千件の観察データを用いて、多くの地域でコアラの個体密度が持続可能な水準を超えていることを明らかにした。
倫理的管理と繁殖操作
「私たちは複雑な環境保全に関するジレンマに直面している。駆除や移送などの従来の個体数管理方法は、一般の市民からの倫理的な懸念を招くか、または、この象徴的な在来動物(訳注:コアラ)には適さないのである。」
「自らの繁栄によって脅威にさらされている種をどのように管理をするか。そして動物福祉と長期的な生態系の健在性を両立するにはどうすべきか」と、研究共著者であるウーロンゴン大学のカタリーナ・ペーターズ博士は述べた。
サルトレ博士らの研究チームは、複数の繁殖抑制策を試験することで答えを見出した。その結果、地域全体ではなく個体密度の高いホットスポットに重点を置き、毎年成体雌の約22%を不妊化することで、今後25年間で推定3400万ドルの費用により個体数を安定化できる可能性が示された。
「本研究の新規性は、その先見的なアプローチにある。成功するかどうか分からない保全計画に資金を投じるのではなく、コンピュータシミュレーションを用いて、どの戦略が最も効果的かを事前に特定し、費用と税金の両方を最適化する。」とサルトレ博士は述べ た。
コアラの保全の展望
気候変動により生息地や分布の再編成が続く中、研究者たちは、根拠に基づいた先見的アプローチが、社会的価値と生態学的必要性が衝突するような知名度の高い種の管理において、ますます重要になると述べている。
この研究は、オーストラリア博物館で実施された約2万件のコアラのゲノム解析に関する先行研究に基づいており、医療処置の可能性を切り開き、コアラの進化に関する知見を提供し、この種を保全するための最適な方法を示している。
Publication details(出版の詳細)
Frédérik Saltré et al, Balancing High Densities and Conservation Targets to Optimise
Koala Management Strategies, Ecology and Evolution (2026). DOI: 10.1002/ece3.72470
Journal information: Ecology and Evolution
感想
今回の翻訳を通して、コアラの個体数減少が叫ばれる一方で、南オーストラリアでは過剰繁殖が起きているという二極化された現状にとても驚きました。野生動物の個体数管理においては今現在の数値だけでなく、長期的な予測も含めて評価する必要があることがわかりました。データに基づいた先見的な保全計画が重要であることを学べる、とても興味深い内容でした。(J.U)