News Letter 2022年5月号 Vol 25

   

NEWSLETTER 2022年5月 Vol.25に掲載された記事の中から、「動物大好きの部屋」の記事をご紹介します。
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コアラの危機!!~コアラがついに絶滅危惧種に指定

2022 年2 月にショッキングなニュースが発表されました。それはオーストラリアのクィーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、オーストラリア首都特別区においてコアラを絶滅危惧種に指定するというものでした。オーストラリアの動物といえばカンガルーとコアラ。そのコアラが絶滅の危機に陥っているのです。
多くの日本の皆様は、コアラがオーストラリア全土に生息していると思われているようですが、実は主にオーストラリアの東海岸に沿ってクィーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、オーストラリア首都特別区、ビクトリア州、南オーストラリア州などの一部にしか生息しておりません。その内の3 つの州と区域で絶滅危惧種に指定されたわけですから、大変深刻な状況であることがお分かりいただけると思います。

もう少し具体的にご説明しましょう。少し前の資料になりますが、AJWCEFの本部がある東南クィーンズランドのある区域で1996-1999 年にコアラの生息数を調査したところ6246 頭が確認されました。その約10 年後の2008 年に同区域で同様の調査を行ったところ2279 頭しか確認できませんでした。実に10 年間で約64%減少したことになります。その後、2014 年にも調査されましたが、当初の生息数から約80%減ったことが確認されたのです。さらにオーストラリア全体でみると、1900 年代初頭には約800 万頭が生息していたと推定されていますが、2019 年の調査では多くとも10 万頭であろうと考えられています。約100 年の間に80 分の1 に減ってしまったという非常に悲しい結果です。
この減少の主な原因は病気によるものと、人間の活動による自然や生息地の破壊があります。特に注意の必要な病気には、クラミジアという細菌が起こすクラミジア症や、コアラレトロウィルス感染症(コアラのエイズ)があります。これ等の病気は悪化すればいずれも命にかかわってきますが、健康なコアラにおいては感染しても発病しない場合が多く見られます。しかし、コアラが精神的や肉体的ストレスを受けると、体の免疫力が低下し発病しやすくなると考えられています。このストレスを与える主な原因は、都市開発や住宅開発に起因する生息地の減少や破壊、人によって持ち込まれた外来種による攻撃、気候変動による自然災害の多発など人間の活動に関係するものです。もちろん、これ等の原因は病気の発病率を高めるのと同時に、直接的にもコアラの生命を脅かしています。AJWCEF が支援をしている野生動物専門病院などには、車に轢かれたり、飼い犬に襲われたり、ユーカリの餌が不足して栄養不良を起こしたりして亡くなったコアラが毎日何頭も運ばれてきます。このような状況が過去数十年にわたって続いている結果、先に述べたようなコアラの生息数の減少がみられるのです。

オーストラリアでは2019 年後半から2020 年前半にかけて、コアラの減少にさらに追い打ちをかけるような事態が発生しました。日本の国土の半分に匹敵する広さの森林が焼失した大森林火災により、コアラの生息地の多くが破壊されたのです。本来、適度な山火事は自然の営みの中では必要な現象です。しかし、近年世界各地で起こる森林火災は気候変動や温暖化などの影響から巨大化する傾向にあり、広範囲に全てを焼き尽くし、自然の営みをすべて破壊してしまいます。世界自然保護基金オーストラリア(WWF Australia)の推定では、この火災で約30 億頭の野生動物が何らかの影響を受けたと考えられています。その内訳は哺乳類が1 億4300 万頭、爬虫類24 億6000 万頭、鳥類1 億8100 万頭などです。このうちコアラは6 万頭以上が被災したと推定されています。このような大災害がコアラの生息に大打撃を与え、2 州と1 特別区で絶滅危惧種に指定されたと考えられます。

しかし、コアラの危機はさらに深い意味を持っています。コアラを含むオーストラリアの動物たちは、長い間ユーカリの森に順応してその生態系を形成してきました。その証拠に、上記の森林火災ではコアラを含む約30 億頭の様々な動物たちが被害を受けています。よって、コアラの危機は同時にそのユーカリの森に生息する様々な動物たちの危機でもあることを忘れてはいけません。

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