NEWS LETTER 2020年11月 Vol.22

   

NEWSLETTER 2020年11月 Vol.22に掲載された記事の中から、「-野生馬とオーストラリアンエコシステム3-」の記事をご紹介します。
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野生馬とオーストラリアンエコシステム3

皆様、こんにちは。AJWCEF スタッフYuko です。 前回から引き続き、オーストラリアでBrumby(ブランビー)と呼ばれる野生馬がオーストラリアの生態系にどのような影響を与えているのか…主に自然環境とのバランスについてお話しましたが、今回はブランビーと固有動物との関係から始めたいと思います。

ブランビー達が集団で農業地帯、農作物を荒らすことにより、
• 土壌に害を与えることでその地に暮らす爬虫類や両生類の生息 地を奪ってしまう
• さらに野生動物達の水源地になっている水路の破壊が水生動物の生態系を壊してしまうといった悪影響が出てきます。
また、ブランビーの人口密度が多い地ではカンガルー類やげっ歯類の人口密度が下がる傾向があります。これは同じ草食動物として種の生存競争が起こっていると考えられますね。 ある調査では特定地域のブランビーを保護して再家畜化したところ、特に岩地や洞窟に住むロックワラビーをはじめ様々な種類のカンガルー/ワラビーがその地に戻ってきたことが確認されたそうです。
他、ブランビー達が生態系に悪影響を与えるものとして考えられるのは、
• ウマからウマへの伝染病、例えば馬インフルエンザ
• ウマやウシ間でダニが媒介する感染症、定期的な寄生虫駆除を行っていないため寄生虫の運び屋としてヒトへの感染の可能性もあります。
• ウマからヒトへの人獣共通感染症、例えばクリプトスポリジウム症。ウマの糞尿などで汚染された水を口に含むとヒトにも感染する寄生原虫が原因です。産業動物を飼育するファーマーたちにとってブランビーの頭数抑制は大きな課題となっているんですね。


さて、今回は前回のニュースレターと2 回に渡ってブランビー達が各方面へもたらす悪影響についてお話しました。被害だけをお伝えすると、ブランビー達はペストだ!と反対派になりかねませんが、皆さんのご意見は如何でしょうか。

最後に忘れずにお伝えしておきたいことが広大な大陸、オーストラリアでブランビーによる被害の大きさは州や地域によってかなり違いがあります。ブランビー達がPest(害獣)の意味を含むFeralAnimals として公式に登録されているのは現在、ノーザンテリトリー州のみとなりますが、他州のブランビー達に対する見解も、時と場合によってはほぼペストという意味合いにはなるでしょう。 そのため、被害の拡大・度合いによってその州の規定に従い政府による
駆除活動が定期的に行われています。
駆除方法としては空・陸からの銃殺の他に罠を仕掛けたり、馬追いをして捕獲、フェンスでアクセス制限をする等が挙げられます。捕獲した後は乗用馬としてトレーニングして引き取り手を探す、ペット用また輸出目的で食用のため屠殺場に送る、ウマ自体を輸送できない場所だとその場で銃殺という例もあります。不妊治療も試みてはいますが、投薬法がないため、1 頭1 頭捕獲して去勢または牝馬には避妊注射をしなければいけない、活動域が比較的狭いグループにしか効果がない、牝馬の不妊薬の効力が数年しか持たないなど、手間と時間、コストを考えると長い目で効果は得られないとされています。
今後、ブランビーの頭数が増え続け、オーストラリア独自の生態系、野生動物、また人間へのさらなる被害が拡大されないよう、効率の良い対策の模索は政府を巻き込んで続いてはいますが、被害を被る場所・地域・人々がかなり限定されるため、オーストラリア国民全体への認知度や声がまだまだ足りない状況なのです。

次回は最終章、ブランビー達を保護する賛成派からの視点、また管理や保護方法・動物福祉についてお話していきたいと思います。

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