オーストラリアにおける猛毒の海洋生物から毒を取り出すオーストラリア
2025/02/05
2024年-5月8日AFP
担当A.K.
オニダルマオコゼは世界で最も強い毒を持つ魚である。
ゾウがあなたの胸の上に座っている感覚を想像してほしい。息ができず危機感を感じ、そしてその激しすぎる痛みであなたは死んでしまいたくもなる。
あなたは今、とても小さなイルカンジクラゲに刺されたところだ。
死ぬことはないだろうが、死んだほうがましだと願うだろう、とオーストラリアのジェームズ・クック大学の毒性学者、ジェイミー・シーモア氏は言う。
彼は知っているのだ。11回も刺されたことがあるのだから。
しかし、シーモア氏の仕事は他の仕事よりもリスクが高いのである。命を救う抗毒素を作るため、海洋生物から毒を搾り取っているのだ。
ゴマ粒ほどの大きさしかないものも含む、何十ものイルカンジクラゲがクイーンズランド州で大学が管理している金属製の小屋の中の水槽に浮かんでいる。
他の水槽には、世界で最も強い毒を持つ魚がいる。オニダルマオコゼだ。
もしその棘が皮膚を貫けば、痛みで意識を失い、傷口の周辺が黒く変色して死んでしまう。
オニダルマオコゼの毒は人間の命を奪うのに十分な威力を持つが、オーストラリアでの死亡事故の記録はない。シーモア氏もまた、オニダルマオコゼに刺されて生き延びた一人である。
彼のチームは、オーストラリアの最も致死的な毒を持つ海洋生物について理解するため、そして人々の安全を守るために研究を行っている。
「オーストラリアは間違いなく、世界一毒を持つ大陸です。」シーモア氏はAFPに語った。
「他国の人々、特にアメリカ人と話すと、私たちが生まれた時点で命を落とさないことに驚かれるのです。」
シーモアは水槽の周りを移動しながら、10分以内に人の命を奪うことのできる毒を持つハコクラゲなど、他の致死毒を持つ動物たちを指しながら説明をする。
刺傷と咬傷
オーストラリア中に毒を持つ動物が無数にいるにもかかわらず、死亡事故は比較的少ない。
最新の公式データによると、2001年から2017年の間で年平均32件の動物に関連した死亡事故があり、その原因は馬と牛が最多だった。
1883年以降、イルカンジクラゲによる死亡事故の記録はたった2件、ハコクラゲによるものは70件程度である。
それに比べて、政府のデータによると、オーストラリアにおける薬物、アルコール、交通事故による死亡事故は2022年だけで約4,700件にのぼる。
「オーストラリアで動物に刺されたり噛まれたりする可能性はありますが、死亡する可能性は非常に低いです。」とシーモア氏は言う。
彼の施設は、海洋生物から致死毒を取り出して抗毒素に変えている唯一の施設である。
猛毒のハコクラゲに関していえば、その過程は厄介である。研究者たちは触手を取り除いてフリーズドライにし、固体になった 時点で毒を集めなければならないのだ。
イルカンジクラゲの抗毒素は存在しない。
その代わり、症状に応じた医師の治療が行われる。すぐに医師の診断を受けることができれば、助かる可能性は高い。
オニダルマオコゼの場合、毒の抽出過程はより難しいものとなる。生きている魚の毒腺に注射器を挿入し、タオルで押さえながらほんの少量の毒を吸い出すのだ。
それから、ヴィクトリア州の施設へと毒を送り、そこで毒を抗毒素に加工する。
まず、施設のスタッフがウマなどの自然抗体を産生する動物に少量の毒を6カ月かけて接種する。
その後その動物の血漿を取り出し、抗体は抽出、精製凝縮されて人間用の抗毒素へと作り変えられる。
死のクラゲ達抗毒素は、誰かが生物に刺されたり噛まれたりした場合に処置を施すことができるよう、オーストラリアや他の太平洋諸島の病院に輸送される。
「間違いなく、私たちは世界一優れた抗毒素を持っています。」セイマーはAFPに、オーストラリアで血清の製造にかかっている時間と労力についても語った。
科学者たちによると、気候変動で刺される危険性が高まり、抗毒素の需要が増大するかもしれないそうだ。
約60年前は、オーストラリアでイルカンジクラゲにさされる季節は11月と12月だった。
海水温が高い期間が長くなったことで、今このクラゲは3月まで生息することができる。
また海の温暖化は、これらの猛毒クラゲ、そして他の海洋生物までもが、オーストラリア沿岸のより南へと生息域を拡大させている。
セイマーの学生たちは、気温の変化が毒の性質をも変えうることを発見した。
「例えば、私がある動物の抗毒素を20℃の環境で作り、30℃の地域で生息している野生動物に噛まれた場合、その解毒剤は機能を発揮しないのです。」と彼は言う。
また、研究は刺す動物の毒がさまざまな疾患の治療に使えるかもしれないということを示唆しており、それには2週間でマウスの関節リウマチが完治した例が含まれる。
しかしこの研究分野はほとんどが資金不足のままで、セイマーの仕事は終わらない。
「毒について考えるときは、野菜シチューのようなものをイメージするとよいです。たくさんの異なる成分が入っています。私たちがやろうとしているのは、それらの成分を分離して、何が起こっているのか確かめることです。」
感想
野生動物が多く海に囲まれたオーストラリアならではの試みが垣間見える記事だった。ヘビ毒の血清療法などは耳にしたことがあったが、海洋生物でも抗毒素の開発が進んでいることは初めて知った。
日本でも南方ではオニダルマオコゼが見られるが、お湯で温めて毒性をやわらげるという対処法が主流であり、抗毒素は入手困難だそうだ(福岡県薬剤師会「オコゼに刺された時の対処法は?」より)。今後より一層研究と国際協力が進み、抗毒素による安全な治療法が世界に広まってほしいと思った。
2024年-5月8日AFP
担当A.K.
オニダルマオコゼは世界で最も強い毒を持つ魚である。
ゾウがあなたの胸の上に座っている感覚を想像してほしい。息ができず危機感を感じ、そしてその激しすぎる痛みであなたは死んでしまいたくもなる。
あなたは今、とても小さなイルカンジクラゲに刺されたところだ。
死ぬことはないだろうが、死んだほうがましだと願うだろう、とオーストラリアのジェームズ・クック大学の毒性学者、ジェイミー・シーモア氏は言う。
彼は知っているのだ。11回も刺されたことがあるのだから。
しかし、シーモア氏の仕事は他の仕事よりもリスクが高いのである。命を救う抗毒素を作るため、海洋生物から毒を搾り取っているのだ。
ゴマ粒ほどの大きさしかないものも含む、何十ものイルカンジクラゲがクイーンズランド州で大学が管理している金属製の小屋の中の水槽に浮かんでいる。
他の水槽には、世界で最も強い毒を持つ魚がいる。オニダルマオコゼだ。
もしその棘が皮膚を貫けば、痛みで意識を失い、傷口の周辺が黒く変色して死んでしまう。
オニダルマオコゼの毒は人間の命を奪うのに十分な威力を持つが、オーストラリアでの死亡事故の記録はない。シーモア氏もまた、オニダルマオコゼに刺されて生き延びた一人である。
彼のチームは、オーストラリアの最も致死的な毒を持つ海洋生物について理解するため、そして人々の安全を守るために研究を行っている。
「オーストラリアは間違いなく、世界一毒を持つ大陸です。」シーモア氏はAFPに語った。
「他国の人々、特にアメリカ人と話すと、私たちが生まれた時点で命を落とさないことに驚かれるのです。」
シーモアは水槽の周りを移動しながら、10分以内に人の命を奪うことのできる毒を持つハコクラゲなど、他の致死毒を持つ動物たちを指しながら説明をする。
刺傷と咬傷
オーストラリア中に毒を持つ動物が無数にいるにもかかわらず、死亡事故は比較的少ない。
最新の公式データによると、2001年から2017年の間で年平均32件の動物に関連した死亡事故があり、その原因は馬と牛が最多だった。
1883年以降、イルカンジクラゲによる死亡事故の記録はたった2件、ハコクラゲによるものは70件程度である。
それに比べて、政府のデータによると、オーストラリアにおける薬物、アルコール、交通事故による死亡事故は2022年だけで約4,700件にのぼる。
「オーストラリアで動物に刺されたり噛まれたりする可能性はありますが、死亡する可能性は非常に低いです。」とシーモア氏は言う。
彼の施設は、海洋生物から致死毒を取り出して抗毒素に変えている唯一の施設である。
猛毒のハコクラゲに関していえば、その過程は厄介である。研究者たちは触手を取り除いてフリーズドライにし、固体になった 時点で毒を集めなければならないのだ。
イルカンジクラゲの抗毒素は存在しない。
その代わり、症状に応じた医師の治療が行われる。すぐに医師の診断を受けることができれば、助かる可能性は高い。
オニダルマオコゼの場合、毒の抽出過程はより難しいものとなる。生きている魚の毒腺に注射器を挿入し、タオルで押さえながらほんの少量の毒を吸い出すのだ。
それから、ヴィクトリア州の施設へと毒を送り、そこで毒を抗毒素に加工する。
まず、施設のスタッフがウマなどの自然抗体を産生する動物に少量の毒を6カ月かけて接種する。
その後その動物の血漿を取り出し、抗体は抽出、精製凝縮されて人間用の抗毒素へと作り変えられる。
死のクラゲ達抗毒素は、誰かが生物に刺されたり噛まれたりした場合に処置を施すことができるよう、オーストラリアや他の太平洋諸島の病院に輸送される。
「間違いなく、私たちは世界一優れた抗毒素を持っています。」セイマーはAFPに、オーストラリアで血清の製造にかかっている時間と労力についても語った。
科学者たちによると、気候変動で刺される危険性が高まり、抗毒素の需要が増大するかもしれないそうだ。
約60年前は、オーストラリアでイルカンジクラゲにさされる季節は11月と12月だった。
海水温が高い期間が長くなったことで、今このクラゲは3月まで生息することができる。
また海の温暖化は、これらの猛毒クラゲ、そして他の海洋生物までもが、オーストラリア沿岸のより南へと生息域を拡大させている。
セイマーの学生たちは、気温の変化が毒の性質をも変えうることを発見した。
「例えば、私がある動物の抗毒素を20℃の環境で作り、30℃の地域で生息している野生動物に噛まれた場合、その解毒剤は機能を発揮しないのです。」と彼は言う。
また、研究は刺す動物の毒がさまざまな疾患の治療に使えるかもしれないということを示唆しており、それには2週間でマウスの関節リウマチが完治した例が含まれる。
しかしこの研究分野はほとんどが資金不足のままで、セイマーの仕事は終わらない。
「毒について考えるときは、野菜シチューのようなものをイメージするとよいです。たくさんの異なる成分が入っています。私たちがやろうとしているのは、それらの成分を分離して、何が起こっているのか確かめることです。」
感想
野生動物が多く海に囲まれたオーストラリアならではの試みが垣間見える記事だった。ヘビ毒の血清療法などは耳にしたことがあったが、海洋生物でも抗毒素の開発が進んでいることは初めて知った。
日本でも南方ではオニダルマオコゼが見られるが、お湯で温めて毒性をやわらげるという対処法が主流であり、抗毒素は入手困難だそうだ(福岡県薬剤師会「オコゼに刺された時の対処法は?」より)。今後より一層研究と国際協力が進み、抗毒素による安全な治療法が世界に広まってほしいと思った。